ダンブルドアが去り、ふたりだけの大広間。
「……」
スネイプの突然の登場に、は動けないでいた。
しかし、このまま教師に背中を向けているのもなんなので、この状態もそう長くは続けられない。
「……」
びく、と頭を床に付けたまま、の肩が揺れた。
「は、はひ」
やや声が上ずっている。
からはスネイプの表情は見えなかったが、呆れているのが伝わってくる。
それはもう、声だけでもわかるほどに。
「いい加減にしろ。わたしの目の前に曝されているスカートの中身をさっさとしまえ」
なんとも間抜けな格好で数秒、は考え込んだ。
そして、今の自分の体勢とスネイプの立ち位置を想像し、衝撃を受けた。
「すすすすみませんでした!恥ずかしいものをお見せして!!!」
そう言って目にも止まらぬ速さで立ちあがり姿勢を正した。
つもりだった。
だが、長い間、土下座の姿勢を取っていたため、足が痺れていたのと頭に血が上っていたので、ひどい立ち眩みを起こしてしまった。
「……、わ」
一度、持ち直したと思ったが、痺れている脚で身体を支えることは不可能だった。
そのまま、何度かよろよろとした後、目の前にいたスネイプを避けるために体重を後ろに掛けたところ、そのまま後ろに引っくり返る形となった。
もちろん、の後ろには真鍮のテーブルが。
「馬鹿者……!」
スネイプの切迫した表情の次に、の視界に入ってきたのは快晴の青空、大広間の天井である。
全ての動きが緩やかに感じ、痛みを覚悟した。
「うがっ」
突然左腕を思い切り引かれたと思ったら、再び視界にスネイプが。
しかし、そこで止まることはなく、勢い余ってスネイプの方が体勢を崩してしまった。
「く……」
だが、そこは彼のこと。
を受け止め、咄嗟に両腕で自身の体を支えたため、両者とも頭を強打するような大事には至らなかった。
ただ、さすがのスネイプも尻餅は免れられなかった。
「うう……」
一方、はスネイプの胸に顔を埋めて動こうとしない。
いや、動けないのであった。
「せん……」
「早くどけ」
「先生……脚がしびれて動けません…」
「何を馬鹿なことを」
「きゃー!!!!むりむりむり!!!!!」
胸に顔を埋め、もごもごと言っていたの体を自身の上から無理やりどけようとしても、あまりの悶え方にスネイプは渋々諦め、仕方なくそのままでいるはめになった。
ホグワーツとて、夏は暑い。
それにも関らず、黒いローブを身に纏い、たくさん付いたボタンをきっちりと締めていたことを、彼は少し後悔していた。
人肌というのは、結構な熱を持っている。
スネイプはそれにじっと耐える。
「……」
「は、い!すみません、もう……」
「動けないなら無理はするな」
「え……」
動かすと、まだ奇妙な感覚を全身に送る両足だったが、無理やり体に力を入れようとしたら、スネイプがそれを阻止した。
驚いたが言葉を失っていると、彼はゆっくりと体勢を立て直して上体だけ起こし、右手を彼女の体に添えた。
「治まるまで待っている」
「あ、ありがとうございます……」
怒られると思っていたは、スネイプの対応の思わぬやさしさに、おかしな緊張が解けたようだった。
彼に体を預け、しばらくおとなしくしていることにした。
陰険根暗贔屓かと思ってたけど、先生って実はやさしいんだな……なんかいい匂いするし……
徐々に脚の痺れが引いてくるのを感じながら、はそんなことを思っていた。
大分、体も楽になり、リラックスしている。
それから少しの間、は言葉ひとつ発せず、静かに呼吸を繰り返していた。
「……」
「……」
「」
「……」
呼び掛けても返事のない、教え子。
たかが脚の痺れごときと思いつつ、彼は柄にもなく、不安になって、自分に身を預ける彼女の肩を掴んで無理やり抱き起した。
「!」
「……うー」
頭にたらいが降ってきた。
例えるならば、そんな表情のスネイプ。
「こいつ……!」
珍しく心配してみたものの、その相手は呑気に自分を下敷きにして眠っていたのだ。
その後、まだ生徒のいない大広間に、スネイプの怒鳴り声との悲鳴が響き渡っていたとか。
補習の予定はまだ決まりそうにない。